白熱電球がもつ非線形I-V特性の理論モデル

白熱電球とは

 白熱電球はジョセフ・スワンにより発明された照明器具です[1]。真空にしたガラス中に封入したフィラメント(抵抗体)に電流を流す事で高温状態とし、その際に生じる高温発光により光を得ます。近年では、低消費電力な発光ダイオード(LED)が普及し始めたことで、照明用途で白熱電球を利用することは少なくなりつつあります。その一方で、電気回路に関する実験ではその扱いやすさから負荷として白熱電球を使用することが多々あります。
 電気回路において、白熱電球が非線形抵抗として振る舞うことは良く知られていますが、その具体的な理論モデルについてはあまり認知されていない様です。本記事では、直流回路素子としての白熱電球の静特性に関する理論モデルについて解説します。

非線形なI-V特性

 線形な抵抗であれば、電流と電圧の関係はEq.(1)に示すオームの法則に従います。具体的には、電流と電圧には常に比例関係が成立します。

$$V = R I \tag{1}$$

一方で、白熱電球の$I$-$V$特性を計測するとそのようにはなりません。具体的には、電圧$V$と電流$I$はおおよそ次式に示すような関係を持ち、比例関係とはなりません。

$$V \propto I^\frac{5}{3} \tag{2}$$

このように、オームの法則を満たさない抵抗は非線形抵抗(もしくは非オーム抵抗)と呼ばれ、非線形な$I$-$V$特性(曲線)を持ちます。

発熱によるフィラメントの抵抗値上昇を考慮したI-V特性モデル

 白熱電球が非線形な$I$-$V$特性を持つ原因は、フィラメントの発熱による抵抗値の上昇が関係しています。フィラメントの温度を$T$とすると、瞬時的な電流と電圧の関係はEq.(3)のようにオームの法則を満たします。ここで、$R(T)$は温度$T$下におけるフィラメントの電気抵抗です。

$$V = R(T) I \tag{3}$$

室温$T_0$におけるフィラメントの抵抗値を$R(T_0)$、抵抗の温度係数を$\alpha$とすると、$R(T)$は次式にて表されます[2]。※フィラメントによく用いられるタングステンの場合、$\alpha = 0.0053 ~ {\rm K^{-1}}$です[2]。

$$R(T) = R(T_0) \{ 1 + \alpha (T ~ – ~ T_0) \} \tag{4}$$

白熱電球点灯時においてフィラメントは$2000 \sim 3000 ~ {\rm K}$程度の高温となるため、このとき上式はEq.(5)のように近似できます[3]。

$$R(T) \fallingdotseq R(T_0) \alpha T \tag{5}$$

電球におけるフィラメントの消費電力と温度$T$を知るために、シュテファン・ボルツマンの法則を利用します。シュテファン・ボルツマンの法則より、フィラメントの消費電力と温度との間にはEq.(6)の関係が成立します[2][3][4]。Eq.(6)において、$0<\epsilon<1$はフィラメントの放射率、$S>0$はフィラメントの放射面積、$\sigma$はシュテファン・ボルツマン係数、$k>0$はフィラメントと電球外の環境間における熱抵抗です。

$$ P = \epsilon S \sigma ( T^4 ~ – ~ {T_0}^4 ) ~ + ~ k (T ~ – ~ T_0) \tag{6}$$

ここで、再び白熱電球点灯時にフィラメントが高温となることを考慮すると、Eq.(6)はEq.(7)のように近似できます[3]。

$$ P \fallingdotseq \epsilon S \sigma T^4 \tag{7}$$

また、消費電力$P$は電流$I$、電圧$V$を用いて$ P = IV $と表せます。これより、Eq.(7)を$T$について解くことで、温度$T$と$IV$の関係はEq.(8)により表されます。

$$ T( IV ) = \left ( \frac{ IV }{ \epsilon S \sigma } \right ) ^ \frac{1}{4} \tag{8}$$

上式の温度$T$と$IV$の関係をEq.(4)に代入することで、次式を得ます。

$$ R( IV ) = R( T( IV ) ) = R(T_0) \alpha \left ( \frac{ IV }{ \epsilon S \sigma } \right ) ^ \frac{1}{4} \tag{9}$$

Eq.(3)、Eq.(9)より、フィラメントの温度上昇を考慮した$I$と$V$の関係は次式にてモデル化されます。

$$V = R(T_0) \alpha \left ( \frac{ IV }{ \epsilon S \sigma } \right ) ^ \frac{1}{4} I \tag{10}$$

Eq.(10)を$V$について解くと、白熱電球の$I$-$V$特性は次式にて表されます。

$$V = \left \{ \frac{ ( R(T_0) \alpha ) ^ 4 }{ \epsilon S \sigma } \right \}^\frac{1}{3} I^\frac{5}{3} \tag{11}$$

一例として、$\alpha = 0.0053 ~ {\rm K^{-1}}$、$\epsilon = 0.1$、$S = 0.001 ~ {\rm m^2}$、$R_0 = 1 ~ {\rm \Omega}$とすると、$I$-$V$特性は図1のようになります。

図1 Eq.(11)のモデルに基づく白熱電球が有する$I$-$V$特性の一例

このように、白熱電球は電流$I$と電圧$V$の関係が線形(直線)とはならず、$V$が$ I^\frac{5}{3}$に比例する非線形性を示します。

まとめ

 本記事では、白熱電球が非線形な$I$-$V$特性を持つことについて解説しました。フィラメントに電流を流すほどフィラメント温度が上昇することで抵抗値が上昇し、その結果として$I$-$V$特性が非オーム性を示すようになります。
 なお、本記事にて求めた$I$-$V$特性は熱力学系が定常状態であることを仮定した静特性です。そのため、電球を電源に接続した直後などにおいては、フィラメント温度安定するまでの過程で過渡的な応答が発生します。具体的には、電球の過渡応答が落ち着くまでの遷移中は抵抗値が定常状態よりも小さくなり、電流が流れやすい状態になります。従って、白熱電球を電源に接続した直後は瞬間的に大きな電流が流れ、フィラメントが加熱されるにつれて、電流はEq.(11)にて定まる定常値へと過渡的に遷移します。また、今回は直流静特性を前提として説明を行いましたが、交流電源に白熱電球を接続した場合も同様に、電流と電圧の実効値$\dot{I}$、$\dot{V}$に対してEq.(11)の関係が成立します。

参考文献

[1] R.C. Chirnside, 河本 康太郎, “スワンと白熱電球の発明,” 照明学会雑誌, vol.63, no.10, pp.614-619, 1979.
DOI:10.2150/jieij1917.63.10_614
[2] Javier Abellán, José Antonio Ibañez, Ramón P. Valerdi Pérez, José A. García Gamuz, “The Stefan–Boltzmann constant obtained from the I–V curve of a bulb,” European Journal of Physics, vol.34, no.5, pp.1221-1226, 2013.
OI:10.1088/0143-0807/34/5/1221
[3] 小西邦明, “豆電球と電池を使う実験の基礎的研究,”
新潟県立教育センター 研究報告, vol.18, pp.17–24, 1978.
[4] Marcello Carla, “Stefan–Boltzmann law for the tungsten filament of a light bulb: Revisiting the experiment,” American Journal of Physics, vol.81, no.7, pp.512–517, 2013.
DOI:10.1119/1.4802873

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